昔使われていた、DTP/グラフィックデザイン用語解説
今回は、30年〜25年ぐらい前まで、業界で当たり前に使われていたデザイン用語について、ご紹介したいと思います。デジタル化により様々な作業が数年のうちに消えていった頃、同時に普通に毎日使っていた“言葉”も無くなっていくんですね。一部は今も使われていたりしますが、当時は当たり前に使っていた言葉も使われなくなってしまいました。40代後半以上の方には懐かしく、若い世代の人には、知識の一つとして知っておいて欲しい情報です。
デザイン用語
カンプ(カラーカンプ)
カンプとは、デザイン案の事で、印刷物の完成見本の事です。昔は、モノクロコピー機などを使って手作りで作っていました。カラーカンプは、カラープリンターやクロマティック(転写シート)を使って手間をかけて仕上げていました。
版下(版下台紙)
版下とは、印刷物を作るため版下台紙(厚手の方眼紙)に、印刷に必要な素材(ロゴや写真の指定、罫線、図版、文字、トンボなど)を手張りしたものです。色や仕上がりの印刷指定をした状態で印刷所に回します。基本的にアナログ作業。後期はデジタルで作成したデザインを、一旦モノクロに戻して印画紙出力し、新たに版下を作り印刷する手間のかかりようでした。後に完全データ入稿が可能になり、CTP(デジタル印刷)が普及し、版下は無くなりました。
写植(電算写植)
当時、キーボードで文字入力をするのは、タイプライターから始まり、ワープロ(ワードプロセッサ)の時代でした。入力した文字は、そのまま書き出すことが出来なかったので、プリントした原稿用紙を見ながら写植機で印画紙に一文字一文字印字していきました。後に、電算写植の登場で、ワープロのデジタルデータを印字可能になったが、DTPの普及のため、全ての写植は業界から消えていきました。 ※一部業務としても残している会社はあるようです。
写植指定(級数・歯送り)
当時の写植は、文字原稿(原稿用紙)に、書体の大きさ(級数)や種類(書体)、行間(行送り・歯送り)等、詳細に指定し、文字を作ってもらい、版下に貼り付けて印刷物を作成していました。写植の書体は現在でも一部デジタル化されてデジタルでも使えるようになっています。
トレスコ(トレーシングスコープ)
写真やイラスト、図版などを、トレスコの下部にある台に乗せ、上部に投影させることで、図版のトレースが出来ます。サイズとピントの調整が可能で、小さな写真を自由に引き伸ばしトレースする事ができました。版下制作でも、コピー機で拡大縮小するようになる前は、トレスコを活用していました。
紙焼き(紙焼き機)
ロゴマークや写植で作った文字を、そのまま版下に貼るには大きさが合わない場合、トレスコと同様の機能で、拡大縮小し、印画紙に焼き付けたものを紙焼きと言いいます。後期には、暗室などを使わずに、機械の中で自動で現像までできるタイプが主流となっていました。
色指定
印刷物を作る場合、版下では、モノクロの情報のみですので、色は製版で行います。製版とは、印刷会社や製版会社が行う工程で、版下から、印刷用フィルムを作り上げる作業を行う事です。色は版下にトレーシングペーパーをかぶせた状態で、赤ペンなどで、カラー指定を行います。色はCMYKカラーの%で指定し、特色なども使用します。実際の色味を確認するのは色校正の時になりますので、大抵は、再色校や再々色校まで行います。印刷工程には現在何倍もの時間がかかっていました。
罫線(表罫・裏罫)
罫線とは、紙面上の線の事。罫線にも種類があり、表罫(太さ約1mm)、裏罫(太さ約0.1mm)。あたり罫(写真の位置やサイズを指示するための罫で印刷には写らない)
トル(トルツメ・トルアキ)
“トル”は、“取る”の意味で、修正指示などに使います。紙面上の写真や文字などを削除する指示として、赤ペンで、削除する部分を囲み、“トル”と指示を書きます。また、文字の一部を削除した場合、“トルツメ”の場合は、取った後、隙間を詰める。“トルアキ”の場合は、取った後、隙間を空けておく。という指示になります。こういった指示は、作業効率や指示の明確さのため業界では使われており、現在でも使われています。
フォトレタッチャー
フォトレタッチャーとは、現在ではAdobe Photoshopなどの画像処理ソフト(フォトレタッチソフト)で加工するものを言いますが、30年前は、写真を大判プリントし、手作業で写真修正を行う職業の人の事でした。技術としては、不動産用の写真修正などで、電柱や電線を消したり、影をつけたりと、地道な作業で写真をレタッチします。写真は当時は印画紙プリントでしたので加工したい部分の表面の薄皮をカッターで剥がし、そこに薄い紙を貼ってから、エアブラシや面相筆等で、詳細に書き込み、写真を完璧に修正していく作業は、プロの技術でした。しかし、DTPの普及により、Adobe Photoshop等で、簡単にレタッチが可能になり、消えていった職業の一つと言えます。
カラーリバーサルフィルム(ポジ)
印刷は全てアナログの時代でしたので、写真はフィルムで撮影します。それをプリントする場合はネガフィルム(明暗が逆転しているフィルム)を印画紙に当て、光を当てると、正規の写真がプリントされるというものです。それに対して、ポジフィルム(明暗は逆転しておらずカラー透過原稿)は、透明な透過フィルムのため、そのままカラー原稿として利用できます。ネガの場合は一旦印画紙に焼き付けて反射原稿として印刷入稿しなければなりません。そのため、広告業界では、ポジが主流でした。実際にカラー写真を使った場合はより美しく印刷出来ます。また、デジタル加工が始まった頃も、デジタルデータを一旦、ポジ(カラーリバーサルフィルム)に出力してから、印刷入稿していました。現在では、全てデータで入稿できますのでずいぶん楽になりました。
印刷・製版関連
写真製版(製版カメラ)
写真製版は、版下を製版カメラで撮影し、フィルム化する作業です。それに使うカメラを製版カメラと言います。製版はデジタル入稿が始まる前までは主流でしたので、膨大な量の仕事があり、会社も数多く存在していましたが、デジタル化により一気に無くなったり、形を変えていった仕事です。
ゲラ
ゲラ(ゲラ刷り)とは、印刷する前に、チェックするための見本刷りの事です。校正刷りは、現在はカラープルーフなどと言い、プリンターで簡易印刷したものを見本刷りにする場合が多いですが、当時は青校(青焼き)といって、簡易的に青色感熱紙に印刷された校正紙で確認していました。
ヌキ(ヌキ合わせ)と、のせ
“のせ”とは、現在のDTP用語で言う所の、オーバープリントの事です。デジタル上で色ベタを重ねた場合、色が重らず上の色だけが表示されますが、印刷時に、物理的にも、色を重ねて印刷する事を“のせ”と言い、オーバープリントと言います。
また、例えば、デザイン作成時に、シアン(青色)1色の色ベタの上に、イエロー(黄色)の色ベタを重ねた時に、実際の印刷で、指定なしで印刷した場合は、必ず“ヌキやヌキ合わせ”になります。シアン面に黄色が乗った場合、黄色の部分は、シアンは印刷しないで、白く色を抜いた状態にし、そこの形に正確に黄色を印刷する事。これをヌキ(ヌキ合わせ)と呼び、より正確に指定する場合、髪の毛も入らないほど正確に合わせるという意味で、毛抜き合わせなどとも言います。
フィルム校正
印刷時に時間がない場合、デザイナーなどが印刷所に出向き、最終確認を行う場合があります。その場合、実際に校正刷りをしている時間が惜しいので、印刷用に作った最終段階のフィルムを4枚重ね合わせて、フルカラー状態にし、ライトテーブル等の上で、最終チェックを行う場合があります。こういった校正をフィルム校正などと呼んでいました。現在ではやらない工程となっていますね。ネットで調べても出てこない用語になってしまいました。
編集後記
これらの用語は、現在では殆ど活用されなくなってしまった言葉ですが、私達の時代の人は、当たり前に仕事で使っていました。現在でも同じ言葉が使われている場合もあれば、全く消えてしまった言葉もありますね。こういった過去の情報は、現在では必要のないものなのかもしれませんが、現在のDTPを理解する上で、これまでの歴史の上に現在の技術は成り立っているわけですので、知っておいても損は無い気がします。
業界でうんちくを語るぐらいには役に立つかもしれませんね。
まだ、書かれていない言葉も沢山あると思いますので、もし思いついたら、追記しておきたいと思います。
今日の記事はここまでです。記事は毎日更新中ですので、明日の記事もお楽しみに!
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代表 大津山 倖雄
クリエイティブディレクター
アートディレクター
Webディレクション、イラストレーション他、専門学校講師
1973年生まれ。福岡市で広告企画・制作に携わり30年以上。大手広告代理店の下請け会社で、グラフィックデザイナーを経験。その後、福岡の制作会社や広告代理店勤務を経て、平成18年4月に退職し、19年には個人事務所として独立。同時期、福岡デザイン&テクノロジー専門学校(旧 福岡コニュニケーションアート専門学校)にて講師契約。現在は、グラフィックデザイン、イラストレーション、WEBデザイン、WEBマーケティングに携わり、様々なクリエイターと共に制作を中心に業務を行っている。