グラフィックデザイン業界の仕事について
今回は、地方都市福岡市での、デザイン業界の仕事環境や残業など、働き方について考えてみました。
28年前の新人デザイナー時代
私がデザイン業界で働くようになったのは、約28年ほど前、1992年ごろでした。当時はデジタルグラフィックが将来的に伸びるだろうと、パソコンを使ったDTPの概念がはじまったばかりの頃でしたが、まだまだアナログ制作が主流で、手作業ですべてを作っていた頃でした。
当時のデシタルグラフィックやアナログデザインの話は、また別の機会にしたいと思いますので、本日は、仕事環境の話にしたいと思います。
28年前に働き始めた頃は、福岡市には大きなデザイン会社が数社ほどしかなく、その中でも最も大きい会社に就職していました。
大きい会社といっても、デザイン業界は職人のような人が集まる場所でしたので、大規模な機材や作業員などはいないので、一般的な中小企業といった感じの会社でした。
しかしデザイナーだけでも100名を超える会社で、コピーライターチームやイラストレーターチーム、版下専門のチームや、写植オペレーターのチームなど、様々な分野で分かれていました。
大きな会社でしたが、入社してからはとても残業が多い会社でした。
朝9時半に出社し、タイムレコーダーを押してスタートです。そして業務は夕方5時半まで、お昼休み1時間を引けば、7時間労働でしたが、入社してから3年間、飲み会や行事以外で、定時に退社した事はありませんでした。
初日は6時半頃まで約1時間ほど、ただ座っていただけで、途中先輩から帰っていいよ。と言われるまでぼーっとしていましたが、すぐに残業も本格的になっていった記憶があります。
当初数ヶ月は、早く退社できると言われているチームに配属になってたので、平均して夜の6時から、8時ぐらいには退社していました。
しばらくして、部署異動があり、忙しいと言われているチームに異動になり、そこに配属後は、初日から午前様で、12時を超えていました。
記憶をたどって思い返してみると、だいたい、仕事が終わるのは12時から1時頃が普通で、月に数回は、徹夜作業といった感じでした。
新人時代でしたので、それが当たり前だと感じてしまい、ずっと残業を受け入れて仕事をしていました。
また、残業手当が少しあったのですが、固定手当で月20時間ぐらいで付く手当でしたので、100%毎月ついていましたが、それを入れても、手取りで12万円ほど。
当時は実家もあまり裕福ではなかったので、経済的にも時間的にも厳しい日々が続いていたのを覚えています。
また、土曜日は隔週で出勤だった記憶がありますが、たまの休みも休日出勤が時々ありました。
休日出勤は代休扱いとなり、年末までに消化するか、1日5000円で買い取ってもらうシステムでした。
今思えば1日5000円など、アルバイトと変わりませんね。
正社員として雇われて、毎日仕事をしている場合、年次休暇、いわゆる有給がもらえます。これは法律的にも守られるべき権利だと思うのですが、その頃は、代休が年間20日ぐらい貯まっており、それからまず消化するように言われており、独身時代でしたので、特に消化する必要もなく、10万円ほどの買い取りを喜んでもらっていたのを覚えています。
年休は権利です。現在であれば、まず年休(有給)から消化させ、あまった有給も買い取らせるのが当たり前だと思いますが、当時の私達は、まったくそういった知識もなく(インターネットも無かった時代)、先輩や上司からいわれるがままにしていたものです。
たまに、上の年代のデザイナーの方が、社長や経理関係のかたと言い合いをするのを聞いたことがありますが、どうもそういった待遇についてのやりとりだったようですね。
残業時間が月に200時間を超えるほど。トータルで400時間。一ヶ月720時間。寝る時間1日6時間を差し引くと、約450時間あり、その中の400時間は会社で仕事をしているという計算です。移動時間や家で過ごす時間を考えると、ほぼ、起きている時間は仕事をしているような感じになります。 今で言うと、ブラック企業ですね。
そういった会社は当時、特別ではありませんでした。
というのも、これまでデザイン系の仕事をしてきた会社4社の中で、3社が同様の残業大好き企業でした。
そうやって、安い給料で長時間労働を強いられる若い頃を過ごさせて頂きました。
ちなみに、4社を退職した後に、現在の講師としての仕事をするようになり、当初はフリーランスの仕事もしていませんでしたので、残業時間0の生活になったわけです。
残業が多いという仕事について
残業時間というのは、予定していた時間をオーバーして、仕事をしなければならない状況になる事ですので、残業を前提とした人員というのは、そもそもが間違っていると言えるのですが、当時デザイン料金も安く、仕事の修正なども多いので、予定通りに仕事が進まない。また、暇な時期などもあるので、簡単に人員を増やすわけにもいきません。
さらには、零細のデザイン事務所などは、人を雇うために求人を出しても人が来ないという所もありました。
過去に働いた会社に、制作業務だけを行っている小さな制作会社がありましたが、そういう会社では、実務的に忙しい状況になるのはしかたがなかったと、思っています。
当時働いていた所の仲間も、とても楽しい人達で、週末に仕事が終わった後は、深夜からでも中央区今泉あたりで楽しく飲んで帰っていました。
働いている人達との関係がいいと、不思議と残業などはあまり気にならず、仕事内容もクリエイティブな物が多いので、自分の意志で、夜中に会社に残って仕上げのクオリティを上げる作業を行ったりもしていました。
問題は、ある程度の規模があり、求人で人を入れることも出来る中で、クリエイティブ業を重視していない社風の会社です。
こういった会社では、クリエイターは育たず、人も長く続かないというものだと思います。
実際にそういった会社も経験していますが、働いている人達も、仕事内容以外の所で過度のストレスを抱えるのは、会社の利益になるかもしれないが、個人の人生を無駄に食いつぶしてしまうという点があります。
また、前に話をした、新人時代、部署により残業時間が違っているという点。
これは、自分で仕事の管理が行えない、平のスタッフ時代、上司の采配により残業を強いられるという点です。
クリエイターとして仕事に責任をもって行う残業と違い、作業員として、労働者として、給料に見合わない労働を強制しているのと同じで、上司の意志でそれを行っている場合はさらに、良くないと思います。
個々が自分の意志で、ものづくりを楽しみながら、やりがいを感じながら仕事をする上での、残業は、クリエイティブ系であればある程度は許容してもいいと思います。
しかし、そうでない、労働の過度の強制は、時間やお金の搾取と同じとなります。
一口に過度の残業と言っても、会社や上司の考え方や環境により、許されるものと、許されないものがあるのだと思っています。
今の時代のクリエイティブ職について
これまで、私の昔話を話してきましたが、今の時代はどうでしょうか。
クリエイティブ職といっても、様々な仕事があり、環境も様々ですが、今の時代でも同じような事は、ある程度残っているようです。
実際に卒業していった学生さんなどに話を聞くこともありますが、酷い残業で安い給料というのは、現在でもあるようです。
昔に比べて、表立って過度の残業を強いる事は無くなってきているかもしれませんが、中小零細の会社では、まだまだ当たり前にある事のようです。
実際に給料も私の新人時代と比べて、さして上がっておらず、コロナ禍でさらに厳しい環境にさらされている方たちも多くいるのではないかと心配されます。
今後、就職や新しい仕事を探す場合、会社の仕事内容や運営状況などは前よりもまして、確認しておけるのなら確認しておく必要があります。
大切な人生を無駄にしないためにも、自分の仕事のやり方や、生き方を良く検討する必要はあると思います。
クリエイティブ職の特徴として、仕事時間 = 仕事の評価 ではありません。頑張っているアピールのために残業するなどは時間とエネルギーの無駄だと思います。
早く帰れるのなら、早く帰り、自分の時間を大切にして欲しいですね。
クリエイターは、お金だけでなく、自分の趣味やものを見る事、経験することなど、ものづくりに活きてくる事がより多い職種です。仕事だけしかしない毎日では、折角の経験という貯金を使い果たしてしまいます。
普段から自分の時間を有意義につかい、経験を貯金していきたいものですね。
最後に
今回は、仕事も忙しい中で思い出話を中心に、デザイン業界を中心としたクリエイティブ業界の、残業や仕事のやり方について話をしてみましたが、過去の思い出というと、こういったブラックで、ネガティブな事ばかりでもありませんでした。
残業中でも、仲の良いスタッフ達と楽しく話したり、店屋物を頼んだり、ものづくりも苦労した分だけ、結果が出た時に一緒に喜んだりも出来て、そう悪いものだったとは思ってはいません。
また、そういった過酷な環境で仕事をこなしていた事で、得られた力というのも実際にあると思っています。
通常より多くの情報や技術を得られること、仕事のスキルや実績といった経験は、時間やお金に変えられない部分があったと思います。
そういった、プラスの面があったからこそ、続けてこられたんだと思っています。
当然、無駄な残業や、人の時間を奪う強制労働のような残業は話になりませんが、ある程度自分の裁量で仕事をまわすようになると、残業は、自分の力が無いという事に繋がってきます。人員の問題もありますが、フリーランスにもなれば、全ては自己責任。徹夜しようが、休み無しで働こうが、自分の責任です。
そういったものは、会社員時代とは違った視点でものが見えてきますね。
能力のある人は、仕事の受注の段階から仕事の納品までの管理を行えるので、残業は最小限に抑えつつ売上を上げることが出来るというものだと思います。(会社員では受発注の自由がない場合は残業は不可避になる場合があります。)
最後に、最悪のブラック企業で働いている方に。
- 過度の残業や会社からの指示で、自分の時間の殆どを奪われている人。
- その仕事にやりがいや将来性を見いだせていない。
- 会社で働いている事以外の、会社の人間関係も苦痛。
- 自分の能力以上の仕事を要求され、失敗も許されない。
- 家族や大切な人との時間を取ることが殆どできない。
- 一般的な社会人として生活出来るだけの収入も得られていない。
- 体に不調があり、これ以上過酷な仕事は健康に支障をきたす。
- 心の状態が良くない。もう生きているのが辛い。
上記の事柄に当てはまり、自身も仕事をやりたくないが、仕事を辞めることが出来ない人は、まず、そこから逃げて欲しい。仕事は人生ではありません。仕事で人生を無駄にしてはいけません。
楽しく生きていく権利があります。
まずは、知人や友人、家族、お役所など公的な所、SNSでもいい、誰かに状況を伝えて自分の事を客観的に見てもらって下さい。
とにかく、そこから離れてしばらく休める場所に見を隠して欲しい。
会社を辞めることが出来るのなら、辞めても良い。人間関係も仕事も、その人の人生と比べたら取るに足らない物です。
まずは、そこから離れて、じっくり休んで、落ち着いたら新しいゆっくり新しい仕事を探すと良いです。
そのために、公的な援助も積極的に受けましょう。何でも使うことが大切です。
真面目すぎることがあなた自身を苦しめている事があります。
仕事以外の人生があることを知るために、とにかくゆっくり出来る場所でしばらく休みましょう。人生では逃げることも必要な時があるのです。
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代表 大津山 倖雄
クリエイティブディレクター
アートディレクター
Webディレクション、イラストレーション他、専門学校講師
1973年生まれ。福岡市で広告企画・制作に携わり30年以上。大手広告代理店の下請け会社で、グラフィックデザイナーを経験。その後、福岡の制作会社や広告代理店勤務を経て、平成18年4月に退職し、19年には個人事務所として独立。同時期、福岡デザイン&テクノロジー専門学校(旧 福岡コニュニケーションアート専門学校)にて講師契約。現在は、グラフィックデザイン、イラストレーション、WEBデザイン、WEBマーケティングに携わり、様々なクリエイターと共に制作を中心に業務を行っている。