第4回 アド・クリップ デザイン講座
デザイナー目線で見る印刷について
今回は、様々な印刷物を作るために必要不可欠な印刷技術の話です。あまり専門的になりすぎず、グラフィックデザイナーとして経験した印刷に関する知識や、デザインの技術として捉えた印刷知識についてお話します。また、現在の印刷業界についても、思ったことを書きたいと思います。
印刷の基礎知識
印刷方式には4つの方式があります。用紙への印刷。用紙以外への印刷など、多様化するニーズに合わせて、様々な方式を選びます。
●平版印刷(へいはん)
平版印刷、またはオフセット印刷ともいい、現在の印刷の主流です。印刷版に凹凸が無く、水と油を使って印刷します。インク部分に親油性、その他は親水性の版からゴムでできたブランケットへインクを写し、さらに紙へ転写する仕組みです。シャープで色調の再現力にもすぐれ、時間や手間がかからないため、大量生産向きの印刷です。
印鑑のように反転した絵柄の凸部分にインクを付け、直接紙に転写する印刷方式です。現在は感光樹脂で版を製作します。力強くシャープな刷り上がりで、シール・ラベル等に使用されています。
グラビア印刷。円筒型の凹版部分にインクを付け、凸部分の余分なインクを削ぎ取ったあとに、紙に直接圧着させます。詳細な濃度の表示が可能で、写真印刷に適しています。仕上がりにもバラツキがなく、大量印刷にも適しています。
スクリーン印刷。編み目部分に感光液を塗ったあとに、ポジから光をあて焼き付けます。その後水で洗い流し版を製作します。感光液の残った部分にはインクが着かないので、あらゆる物に印刷が可能です。主に電子機器や金属・フィルムなどに使用されます。
様々なインク(インキ)の種類
印刷で使用されるインクには通常使用される4色カラーと、特色と呼ばれるカラーの2種類があります。
まず、一般的なインキとして、C版(シアン)M版(マゼンタ)Y版(イエロー)K版(ブラック)があります。上記インクはプロセスカラーといって、4色の網点の量によって多彩なカラーを表現します。カラープリンターのインクやトナーなどもこの4色で表現します。また、プロセスカラーでは表現できない色を表現するには、特色を使用します。
■特色のカラーチップ DICカラーガイド
印刷用紙について
通常、印刷に使用される紙の種類で最もポピュラーな物に、コート紙があげられます。色も白く、安価なため、主にチラシやカタログなど、幅広く利用されています。こういった紙には様々な種類があります。
まず紙の白さで種類が分かれます。
最も白いアート紙から、上質紙、中質紙、下級紙へと順番に白さや、きめの細かさなどが変わります。
また、紙の表面に特殊な塗料を塗ったものを塗工紙と言い塗工量によっても、紙の種類が違ってきます。
表面の平滑度や塗工量、色の白さなどのレベルの高い印刷用紙で代表的なものにアート紙があります。アート紙はポスターや高級カタログなどに使用します。
コート紙はアート紙に比べ、塗工量を減らしたもので一般的に、広く使われる用紙です。チラシ等の大量印刷に利用されます。最も多く利用されていることから価格もリーズナブルで、費用対効果の高い用紙と言えます。他にも、表面に塗工量を使わない、上質紙などがあり、ペン等で書き込みが出来るチラシやカタログ等に使用されています。
パルプの量により上質紙、中質紙、更紙(わら半紙等)などに分けられ、紙の白さや質感が違います。
他にも、塗工量を少量に抑えた、微塗工紙などもあり、比較的安い事もあり経費削減などに活用されることがあります。
また、表面に特殊な加工を施した、ミラーコート紙や、キャストコート。主にカタログの表紙やパッケージに使用します。グロス系用紙です。また、マット系の加工を施した、マットコートなどをマット系用紙と呼びます。落ち着いて、しっとりした仕上がりのため、高級書籍やカタログの表紙などに使用します。
さらに質感を出せる加工もあり、表面に特殊なビニールを貼ったPP加工。特殊な薬品を表面に施したニス加工など、自由に紙に質感をもたせる事もできます。
用紙は、グラフィックデザイナーにとってとても大切な要素で、パソコン上では分かりえない、手触りや質感を表現でき、特殊印刷などにより、高度な表現ができる技術となります。これらは、実際に経験してみないと分からない技術です。機会があればできるだけ自分で用紙を選択し、仕上がりの見本を取り寄せて見て下さい。
表面加工について
印刷物に、様々な表面加工も可能です。以下、一般的な加工方法を掲載します。
光沢コート
表面に表面の強度と光沢を高めます。ニス引き・ビニール引きとも言われ表面に塗料を塗装します。
エンボス
浮き上がらせるという意味の言葉で、文字や絵柄を凸状に加工します。また、凹ませる場合は空押しそも言います。箔押しと同時に使用する事で、より高級感を演出できます。
箔押し
金や銀、その他の色つき箔を熱で圧着します。紙やプラスチックなど様々な素材に使用します。金属的で高級なロゴイメージなどに利用されます。
ラミネート(貼り加工)
ポリプロピレンにより、のフィルムで挟み込み、熱圧着します。また接着剤などで貼り加工される場合もあります。
プレスコート(塗り押し加工)
印刷面に熱硬化性樹脂を塗り、鏡面加工した板で圧着させます。鏡面の光沢とつや、汚れ防止などに効果が期待できます。また、片面加工しか行えません。
トムソン打ち抜き加工
特注の刃で印刷物の形状を切り抜きます。長い刃を加工してある程度自由な形に形状を切り抜く加工です。また、紙面の中をくりぬく場合もあります。
上記の “箔押し” 技術はよく使われる印刷技術の一つです。金箔や銀箔のような高級感のある特殊印刷です。
ただし、上記の表面加工の上に入れることが難しいため、表面加工の種類や印刷の順番などを考慮して加工する事になり、実際の印刷技術者に相談することもしばしば。
詳しくは、以下の過去記事をご覧下さい。
グラフィックデザイナーにとっての印刷技術
印刷物は、デザイナーにとって、作品であり、商品でもあります。その仕上がりに影響が大きいのが、印刷技術と言えます。チラシやポスターなどの絵柄重視のデザインも重要ですが、パッケージデザイン等は、印刷技術の影響が大きく、商品としても、そのブランド的価値を左右する重要な技術となっています。前項に出ていた加工技術などで、PP加工やトムソン加工、エンボス加工などを施す事で、商品のブランドイメージが大幅にアップする場合もあります。化粧品や有名店の菓子パッケージなど、包装次第で大きくイメージが変わってきてしまいます。そういった技術に関しては、何度も経験して培っていく必要があり、若いデザイナーや、企業の担当者では利用が難しい部分があります。そいった場合は、経験豊富なグラフィックデザイナーや、印刷会社の営業などに、突っ込んで相談してみると良いと思います。印刷会社の協力がなければ、クオリティの高いパッケージを作るのにも苦労します。
また、広告紙面などにも印刷の技術が使われます。モノクロの写真面に対して、複数回の印刷を施す技術で、ダブルトーンと呼ばれる技術です。昔、アナログ時代は、印刷会社と協力して、写真に深みを出すため、モノクロ印刷に、グレーの複版を追加印刷するのですが、現在のCTPと呼ばれるデジタル印刷技術では、あまり使われなくなった技術と言えます。今は、モノクロの写真をあえてカラーで印刷し、少し色を混ぜるなどして、深みのある発色を表現できますが、どちらにしても印刷会社の協力がなければ難しい技術と言えます。アナログの時代では、印刷技術者と共に様々な取り組みを行っていました。現在では印刷設備が高度になったこと事と、デジタル印刷が主流になった事で、特殊な技術の話をする機会が少なくなったのかと思います。
しかし、印刷技術は数十年のうちに非常にレベルが上っており、印刷毎に色味が変わっていたり、版ズレ(各版の色が少しずれる事)など、ほとんど見なくなりました。
また、印刷会社にも、得意分野があり、ラベル・シール印刷に特化している会社、紙バックに特化している会社、ダンボールなどの包装紙への印刷が得意な会社などがあり、印刷会社同士で、連携して印刷を行っているという現状があります。
私が住んでいる福岡市に限りますが、印刷に関しては得意な分野の会社に、ダイレクトに依頼することで、専門の技術者と打ち合わせたり、場合によっては費用ついても予算を抑えることが可能です。印刷について悩んだ時は、アド・クリップにご相談下さい。
デザイナー視点で見た印刷業界について
印刷会社との付き合いは、28年前ぐらいから始まり、現在まで様々な会社とお付き合いさせていただいています。その中で、最も大きく変化した事を2つご紹介したいと思います。
1つ目は、デジタル印刷に変わったことです。26年前は、アナログの時代でした。デザイナーは、デザインのレイアウトを考え、版下を作ります。文字は写植と呼ばれる印画紙に焼き付けた文字を使い、修正は紙焼きといって、製版カメラのようなもので、文字等のサイズを変更し、再度印画紙に焼き付ける作業を行います。その後、写真指定や色指定を行い、製版会社に渡します。入稿後は、色校正・ゲラ→下版→印刷となります。この工程が『デジタル入稿(デジタルで印刷会社にデータを渡す)』が可能になり、次に、CTPなどにより、印刷の工程もデジタル化されます。
これにより、DTPの普及が一気に進み、カラーカンプ(カラーのデザインサンプル)制作→印刷までの作業が短縮されました。また、Photoshopなどの画像処理もデザイナー自分で行えるようになりました。
当時最新のDTPに対応するために、印刷会社は設備投資に苦労していたと思われます、また、デジタル移行についていけない人材は、業界(デザイン業界、写植業界、製版業界、印刷業界)から離脱する事になり、多くの人と離れることになります。
しかし、デジタル印刷のおかげで仕上がりのクオリティが安定し、印刷仕上がりが安定したことにより、カラールーフ等による簡易的な校正が可能になり納期短縮などが出来るようになりました。
また、グラフィックデザイナーは、DTPの技術がより必要とされるようになります。この頃からDTPオペレーターが必要とされはじめます。
他にも、これまでの20数年間の間に、大きな変革が何度か行われています。印刷のデジタル化以降、インターネットの普及→ブロードバンドの普及→WEB技術の発展→クラウドを利用した様々なビジネス。と技術は移り変わり、その都度、新しい知識や新技術への対応が必要になりました。技術の革新に対して、自分自身が変化していけるよう、柔軟な気持ちを持ち続ける事が生き残りにはとても大切な事。と、最近よく思うようになりました。
2つ目は、ネット印刷の普及です。ネット印刷は、一般の印刷会社の印刷費を大幅に下げた、低格安の印刷を行う印刷会社です。
通常の印刷会社と比べてロットの少ない印刷であれば、大幅に安く印刷ができ、データ入稿もパソコンの前で作業するだけで完了できます。とても便利です。気になる仕上がりも、CTPによりデジタル印刷になった事で、クオリティは悪くありませんし、印刷メニューも豊富にあります。実際に印刷の種類によっては良く利用しています。
しかし、デメリットもあり、安く印刷するためには印刷工期が必要で、遠方の印刷会社である場合も多く、納品までに時間がかかります。また、細かな指定が出来ない、入稿や変更、再入稿、再指定などの方法が難しい、営業の顔が見えないので重要な案件では安心して発注できない(実際にトラブル時に、電話も繋がりにくくメールの返信も遅いのでトライブル対応に不安がある)、大量印刷が出来ない場合がある、詳細な指示ができない(ナンバリングの書体指定や印刷物の封入・発送作業が出来ない、特色印刷や特殊印刷が出来ない等)。まだまだ、メインで利用するには不安があるのが現状です。費用は多少かかりますが、地元の印刷会社がなければ安心して印刷を請け負う事も出来ません。
小部数で、急ぎでない、簡単な印刷などは、圧倒的に安いネット印刷が圧勝しますが、地元の印刷会社とのお付き合いは、クライアントの様々な要望に、スムーズに対応するためには必要不可欠です。ただ安いだけで印刷会社を選ぶのにも注意が必要です。
最後に印刷業界について、印刷会社は大変厳しい状況に立たされていると思います。ネット印刷の普及や、インターネット等のデジタル媒体の普及による紙離れなど、グラフィックデザイナーとしても肌で実感できます。アド・クリップでも、紙媒体と比べてホームページ制作やWEBマーケティング関連の依頼増えており依頼数も逆転しています。
しかし、印刷会社にも時代の変化に柔軟に対応出来ることは沢山あると思います。印刷技術や設備を最大限に活かします。例えば、絵本など手に取り触れる事に意味がある商品に注目し、特殊な印刷技術を利用するなど、得意分野を活かせるモノづくりと、それを販売するために、技術革新が進むWEBマーケティングを活用する事も可能かと思います。私たちクリエイターも、印刷会社との連携し、話題性のある商品ブランディングや、個性的なクリエイターと連携し、クオリティの高いデザインを簡単に印刷ができるアプリの開発。
これらは、すでに行われているビジネスモデルでもありますが、まだまだ、開拓の余地がある分野が、数多くあるのではと思っています。
今後のデザイン講座予定
★クリック!で下に表示★ デザインに関する授業予定。変更する場合もあります。
- グラフィックデザインの必要性。誰にとって必用なスキルなの?
- DTPとは? 必要なノウハウや業界について
- DTP/宣伝用チラシやポスターを自分で作れるのか?
- DTP/デザイナーから見る 印刷技術・印刷業界について
- DTP/【フォント】書体・文字・組版について
- DTP/印刷入稿時のデータチェックについて
- DTP/専用アプリケーション(Adobe Illustrator.Photoshop)について
- WEBサイト/ホームページは自分で作れるのか?
- WEB関連/ブログパーツやバナー制作等
- WEB関連/CMSについて WordPress活用法
- WEB/WordPressをつかったホームページ制作※技術レクチャー〈不定期掲載〉
- Adobe Photoshopテクニック1
- Adobe Illustratorテクニック1
アド・クリップ クリエイティブマガジンのコンセプト
私たちのコンセプトは、クリエイターやものづくりに関わる皆さんに、役立つ情報を提供することです。
デジタル技術は、将来の収入源として非常に重要です。
しかし、学び始める際にはいくつかのハードルが立ちはだかります。
学校や書籍、ネット上の情報は、時には難しく感じられ、成果が得られないのではないかと不安に感じることもあるでしょう。
そこで、私たちは効果的な学び方を提案します。
私たちのコンセプトは、クリエイターやものづくりに関わる皆さんに、役立つ情報を提供することです。
デジタル技術は、将来の収入源として非常に重要です。
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学校や書籍、ネット上の情報は、時には難しく感じられ、成果が得られないのではないかと不安に感じることもあるでしょう。
そこで、私たちは効果的な学び方を提案します。
次のポイントを重視した方法です
- 無駄を省くこと
- 技術を効率的にマスターする方法を見つけること
- 重要なポイントに焦点を当てること
- 学びを楽しむこと
- AI技術を活用して必要な知識を得ること
- 書籍やネットには載っていない重要な情報を提供すること
- 習うより慣れることを重視すること
特に、ChatGPTなどのAIツールは、デジタル技術のサポートに24時間対応しており、AIの活用方法についてもこのブログでご紹介します。
無駄な専門用語や不要な情報を排除し、効率的に学び、成長する道を提供します。デザインもシンプルで自己満足に陥ることなく、重要なスキルに集中します。
AdClipクリエイティブマガジンは、ビジネス層から一般の方まで、学びたいと思うすべての皆さんに向けて、役立つ情報を提供し続けます。
私たちのコンセプトに共感いただける方は、ぜひSNSのフォロー、YouTubeチャンネルの登録、ブログのブックマークなどをお願いいたします。
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代表 大津山 倖雄
クリエイティブディレクター
アートディレクター
Webディレクション、イラストレーション他、専門学校講師
1973年生まれ。福岡市で広告企画・制作に携わり30年以上。大手広告代理店の下請け会社で、グラフィックデザイナーを経験。その後、福岡の制作会社や広告代理店勤務を経て、平成18年4月に退職し、19年には個人事務所として独立。同時期、福岡デザイン&テクノロジー専門学校(旧 福岡コニュニケーションアート専門学校)にて講師契約。現在は、グラフィックデザイン、イラストレーション、WEBデザイン、WEBマーケティングに携わり、様々なクリエイターと共に制作を中心に業務を行っている。